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民事執行法改正によってもう慰謝料の逃げたもの勝ちはさせない!

更新日:2019年08月06日
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離婚をする時には夫婦で話し合いをして、夫婦の間に子供がいる場合は親権者に対して養育費を支払う約束をするかと思いますが、実は養育費の多くは未払いになってしまっているようです。
未払いがあった場合は「差し押さえ」をして強制的に養育費を支払わせることができます。

養育費の未払いが多い理由や差し押さえの方法などをチェックしていきましょう!

養育費をもらっている人の割合

 2016年に行われた厚生労働省の調査によると、母子世帯の母の養育費の受給状況は
  ・現在も養育費を受けている…24.3%
  ・養育費を受けたことがある…15.5%(=途中で支払われなくなった)
  ・養育費を受けたことが無い…56.0%
  ・不詳…4.2%
 となっています。
 つまり、きちんと養育費をもらっている人は全体の約2割しかいないということになります。

 実は養育費の未払いは社会問題なのです。
養育費の未払い状態を解消するにはどうしたらよいのでしょうか?

養育費の未払い解消方法

 養育費の未払いがあった場合の解消方法は、離婚をした際に行った取り決めの状況ごとに異なります。

 

●養育費の取り決めを公正証書にしている場合

  →取り決めの内容を公正証書にした場合、強制執行つまり差し押さえをすることができます。
   公正証書とは公正役場で作成された公文書のことで、裁判の判決と同じ効力を持ちます。この公正証書の内容に「未払いがあった場合は強制執行してもよい」旨が記載されていれば強制執行することが可能です。(ただし相手方の収入の状況などによっては強制執行できない場合があります。)

 

●調停や審判によって養育費の取り決めをしている場合

  →調停は家庭裁判所で調停委員などを含めて行う話し合いのことです。調停でも話し合いがつかない場合は審判に移行します。審判では裁判官が養育費の支払いについて決定します。
   調停や審判によって養育費の取り決めをしているにも関わらず未払いがある場合は家庭裁判所にて履行勧告・履行命令の申し出をする、または地方裁判所にて強制執行の手続きをすることが可能です。

履行勧告は家庭裁判所から元配偶者に対して「支払いなさい」と勧告を行うだけで強制力はありません。また、履行勧告より効力の強い履行命令を出された場合、従わなければ10万円の過料が科せられますが、あくまで養育費の支払い確保するための制裁ですので、こちらにも強制力はありません。
   確実に養育費を支払わせるためには強制執行することになるのではないでしょうか。

 

●養育費の取り決めをしていない場合

  ①元配偶者と話し合いをして公正証書を作成する
   →話し合いの上、合意した内容を公正証書にします。
  ②元配偶者と調停を行う
   →話し合いや、公正証書にすることを拒否した場合は調停を行います。
    

差し押さえの対象物

 差し押さえをするにあたって大切なのは「債務名義」を取っておくことです。
 債務名義とは強制執行することを公的に認めた文書のことを言います。請求権があることや請求の範囲、債権者、債務者などが記載されています。これによって権利義務が証明されるため裁判所が強制執行することができるというわけです。
 例えば養育費に関わる調停調書や審判書、判決書、執行証書(強制執行できる公正証書のこと)が債務名義に当たります。

 では差し押さえの対象物をみていきましょう。
 基本的には相手の財産が差し押さえの対象物となります。

 

●金銭

  まずは現金や預貯金です。
  主には口座にある預貯金が差し押さえの対象となると考えられます。 
  預貯金の差し押さえをするには銀行名や口座名義人の特定などが必要です。また、口座にお金が入っていなければ差し押さえることはできません。 
  銀行までは把握できていても支店名がわからないケースが多いようです。
  把握できない場合は弁護士の「弁護士照会制度」を利用して、元配偶者の口座を調べることが可能です。

 

●給料

  給料は毎月決まって会社から支給されますので差し押さえしやすい財産です。
  元配偶者が離婚前と同じ会社で働き続けている場合はかなり有効だと言えます。
  給料が差し押さえられたら会社から直接支払いをしてもらえるので確実に養育費を受け取ることができます。会社から支払われるので、元配偶者の勤務先をきちんと把握しておく必要があります。
  差し押さえができる金額は、給料から税金や社会保険料を引いた金額の1/2までとなっています(差し引いた額の金額が33万円を超える場合はその33万円は差し押さえ禁止となります)。

 

●不動産

  不動産で養育費を回収する多くの場合、競売にかけて落札された金額から配当を受けます。しかし、競売の申し立てに数十万円の予納金が必要なこと、競売手続きから配当までにかなりの時間を要することなどからあまり利用されることはないようです。
  とは言え高額で競売できた場合はまとまった養育費を手に入れることができる可能性がありますので、時間がかかっても良いという場合は不動産の売却は大きなメリットになるのではないでしょうか。

 

●その他の動産

  車や貴金属なども競売にかけて得た配当から養育費を手に入れることができます。
  しかしこちらも予納金が必要なこと、不動産に比べて売れにくいことなどから、あまり利用されないようです。

 

●生命保険など

  生命保険や火災保険などの解約返戻金(解約時に払ったお金の一部が戻ってくるもの)は差し押さえをすることができます。解約返戻金を差し押さえた場合、生命保険が強制的に解約されて、その解約返戻金から慰謝料の支払いを受け取ることができます。
  生命保険などの差し押さえは、加入している保険会社名がわかれば手続きをすることができます。

民事執行法が改正されたらどう変わる?

 養育費の支払いが滞ってしまったら、受け取る側は「連絡がつかない」「会社を辞めていて勤務先がわからない」とあきらめてしまうケースが多いようです。
 その結果、育児をしながらでは長時間働けずお金がないため生活が困窮していくといった家庭が少なくないそうです。

 ここまでみてきたように、差し押さえをするためには口座の詳細や勤務先を特定しておく必要があります。夫婦だったころなら簡単に調べることができますが、離婚した後では元配偶者のそういった情報を調べることはよほど仲が良くない限り限界がります。
 つまり、会社も辞めて携帯の番号も変えて、どこか知らないところに引っ越されてしまったら養育費の請求をすることはできません。逃げたもの勝ちになってしまうのです。

 この状況を変えるために、民事執行法が改正されます。
 改正後は差し押さえがしやすくなるように「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されます。
 この制度によって、裁判所から市町村や銀行に照会をすることができるようになりますので、元配偶者の勤務先や銀行口座の支店などを把握することができるようになります。
 もう口座の支店や勤務先がわからなくなったからと言ってあきらめる必要はなくなるというわけです。
 また、差し押さえをするまでも無く法改正によって逃げることができなくなるという意識を持たせることができますので、養育費の支払いを開始させることや再び養育費の支払いをさせることができるようになるかもしれません。

まとめ

 養育費を確実に受け取るためには、離婚をする際の養育費の取り決めについて未払いがあった場合に強制執行をすることができる公正証書(執行証書)にしておくことがひとまず大切です。
 取り決めが無く、改めて話し合いをする場合も必ず執行証書にしておきましょう。
 話し合いに応じない場合や執行証書にすることを拒否する場合は調停や審判を行います。また、履行勧告や履行命令、強制執行は裁判所に申し立てます。
 裁判所に関わる内容になってきた場合は手続きが複雑な事や、元配偶者が弁護士を立ててくる可能性がありますので、弁護士など法律に詳しい人に依頼をすることをおすすめいたします。

 強制執行をすることができる財産には現金や預貯金、給与、不動産、生命保険の解約返戻金などがありますが、主には預貯金と給与だと考えられます。
 改正された民事執行法は、成立から1年以内に施行されるようです。
 今は強制執行をするために必要でも把握しにくい銀行口座の支店や勤務先も、改正後は把握しやすくなるため養育費の未払いは大きく減るのではないでしょうか。
 どうかあきらめずに養育費の請求をしてみてくださいね!

 費用はかかってしまいますが確実に簡単に養育費の請求を勧めたい方は、弁護士などに依頼をしてみましょう。無料相談を行っている事務所などもありますので、まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか?

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離婚慰謝料弁護士ガイド 編集者

離婚問題に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 離婚問題でお悩みの方は是非参考にしてみてください。 また、お一人で悩まれているなら一度弁護士へのご相談を強くおすすめ致します。 今後も離婚問題に関する情報を多数発信して参ります。

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